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東京高等裁判所 昭和30年(う)2419号 判決

控訴人 被告人 大西収三

弁護人 横田隼雄

検察官 田辺緑郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人横田隼雄作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意書訂正申立と題する書面に記載されたとおりであるから茲にこれを引用し、これに対し次のように判断する。

論旨第一点及び第三点について

被告人に対する前科調書、指紋照会回答書及び電話聴取書等を総合すれば、被告人は昭和十八年五月二十七日東京区裁判所において窃盗罪により懲役二年に処せられ、昭和十九年一月八日該判決確定と共に服役したところ、昭和二十年四月十二日刑の執行を停止されて出所したことが明認せられ、これによると被告人の右服役期間は一年三月四日、その残刑期は八月二十六日であること所論のとおりである。ところが(一)昭和二十年十月七日勅令第五八〇号第四条第二号により右懲役二年の刑は右残刑期の二分の一に当る四月十三日を減ぜられて一年七月十七日に変更、その残刑期は四月十三日となり、(二)昭和二十一年十一月三日勅令第五一二号第四条第二号により右(一)によつて変更された懲役一年七月十七日の刑は右残刑期の二分一に当る二月七日を減ぜられて一年五月十日に変更、その残刑期は二月六日となつたところ、(三)昭和二十七年四月二十八日政令第一一八号第四条第二号により右(二)によつて変更された懲役一年五月十日の刑は該刑期の四分の一に当る四月十日を減ぜられて一年一月に変更されたため、前示執行停止までの服役期間が右(三)によつて変更された刑期を超過することとなり、ここに被告人は前記政令施行の基準日(昭和二十七年四月二十八日)において既に右刑の執行を受け終つている結果となつたものといわなければならない。然らば原判決が右と同様の判定に立脚し、この前科と本件との間に累犯関係を認めて相当法条を適用したのは正当である。所論は独自の見解であつて、採用の限りでない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 久永正勝)

横田弁護人の控訴趣意

第一点原審判決は理由不備の違法がある。原審判決理由中、「なお被告人大西収三は昭和十八年五月二十七日東京区裁判所に於て、窃盗罪により懲役二年に処せられて服役中同二十年四月十二日刑の執行停止により執行停止中のものとなつていたところ、同二十七年政令第一一八号により刑期に変更があつた結果同二十七年四月八日該政令施行の基準日に於て右刑の執行を終ることになつたものである。」と説明せらるるが、原審判決に挙示の右該部分に対する証拠説明に掲記の「被告人大西収三に対する前科調書並に指紋照会回答書」によれば、とありてその前科調書によれば、「(一)昭和二十年勅令第五八〇号に依り懲役一年七月十日に変更、(二)昭和二十一年勅令第五一二号に依り懲役一年五月十日に変更、(三)昭和二十七年政令第一一八号に依り懲役一年一月に減刑」。その指紋照会書の回答によれば、「刑名刑期 懲役二年言渡年月日 昭和十八年五月廿七日 刑の始期 昭和十九年一月八日 出所の事由及びその年月日 昭和二十年四月十二日刑の執行停止」と記載あるが、被告人は窃盗罪により昭和十八年五月二十七日東京区裁判所に於て懲役二年の判決言渡を受け、同十九年一月八日確定同日刑の執行を受け受刑中、昭和二十年四月十二日刑の執行停止を受け出所、その期間は一年三月四日なりと認められ(一)昭和二十年十月十七日勅令第五八〇号減刑令第四条第二号により、刑期二分の一を減せられ懲役一年(二)昭和二十一年十一月三日勅令第五一二号減刑令第四条第二号により、刑期二分の一を減ぜられ懲役六月(三)昭和二十七年四月二十八日政令第一一八号減刑令第四条第二号により、刑期四分の一を減せられ懲役四月十五日となるが、被告人は前記の如く既に一年三月四日刑の執行を受け居るものなれば、前記(一)の減刑令公布と同時に刑の執行免除を得たものと解せられるものなるに原審判決は、「昭和二十七年四月二十八日政令施行の基準日に刑の執行を終ることになつたものである。」と判示したるは、前記勅令等の経過規定を無視し内容を調査することなく、指紋照会回答書記載事項を信用したる違法あるのみならず、刑の執行免除となりたるを、刑の執行終了と記載したるは理由不備の違法ありて破毀を免れず。

第三点原審判決は疑律錯誤の違法がある。被告人の前科に就ては第一点所論の如くであるに、原審判決は法令適用の部に於て、「刑法第五十六条第五十七条」を適用したるは違法である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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